幕が上がる

それは、2015年になって間もない1月8日に突然メールにより知らされた。


「伊野尾慧舞台出演決定」


仕事の休憩中にトイレでメールを読んで事態が呑み込めず、頭が真っ白になったのを覚えている。

正直、舞台という演技のお仕事がこのタイミングで伊野尾くんにまわってくるとは夢にも思っていなかった。足元がふわふわしてくる。
「か、通う…!行けるだけ行きたい!お金は、独身時代のあっちの口座のやつ使って…」

ふと日程を見る。今度は違う意味で頭の中が真っ白になる。私は妊娠中で、舞台の公演期間がまさに出産予定日付近に丸かぶりだったのだ……

「あ、行けないじゃん…」結論は一瞬で出た。当たり前だけれど、一番大事なものはお腹の赤ちゃんでそれは揺るぎない。
でも、結論が出ることと、気持ちがきちんと整理できることは全くの別物だった。

舞台の内容に関する情報が入ってくる。
阪神淡路大震災がベースにある話らしい。
私は、伊野尾くんの大学時代の話が好きだ。多く語られることはなかったけれど、彼のしなやかで多角的なものの見方に大学時代の経験(とくに被災地を研究対象としたゼミ)が大きく影響しているのはとてもよくわかったし、そんな伊野尾くんがこの舞台をどう受け止めどう演じどう成長(って言うと偉そうで嫌なんだけど)するのか、彼を自担と呼ぶ以上どうしてもどうしても観たいと思った。結論は出てるのにそんな想いが消えない。

仕事も手につかず、家に帰るとどうしようもない想いに涙が出てきた。帰宅した夫に事情を話し、結論は出ている、でも気持ちの行き場がないんだよー!とわんわん泣いた夫は、どんだけやwと少し呆れながらも「赤ちゃん産んでくれてありがとね」と寄り添い慰めてくれた。


妊娠した時、「しばらくヲタ活も産休や〜」と明るく考えた。行けないコンサートもあるだろうし、もしかしたらその行けないコンサートは夢のBESTコンかもしれない。来年こそ私の嵐名義が息しそうなんだけどな!なんてその時想定できる一番残念なことを考えて、でもそれ以上のかけがえのない宝物が私にやってくる!茶の間上等!茶の間すら余裕なくて出来ないかもしれないなぁ、とまで思った。昔からそこまで物分かりが悪いほうではない。どうしようもないことはどうしようもない。根気や粘り強さがないのは欠点でもあった。

だけど、まさかの想定外の完全なる死角から、よりによって…なタイミングでやってきた伊野尾くんの「初主演舞台、座長」というお仕事にとんでもなく動揺した。念には念を入れて、何があっても落ち込まないために予防線張りまくったのに…。せめてあと1ヶ月公演期間が前倒しになっていれば1公演くらいは観れたのではないか…なんて言ってもどうしようもないことが何度も頭の中をぐるぐるする。スタンディングのライヴではない、舞台だ。時期さえ問題なければ妊娠中でも、体調次第とはいえ難なく行けたのに。(今思えば、あと1ヶ月妊娠の時期がズレていれば…とは1度も思わなかったなぁ。1ヶ月ズレてたらこの子じゃないんだし当たり前か。)

チケット申込の振込期限間近、振込用紙を1枚書いてみた。行けなくても、記念にチケットだけでも欲しいと思った。だけどいざ手元にチケットが届いてしまったらそれで気が済むわけなどないとわかりきっていた。私は心が狭いからそれを誰かにお譲りすることもきっと難しい。そして万が一にでもその空席がステージ上の伊野尾くんの目に入ってしまったら…そんなの絶対に嫌だった。

振込先用紙は破って捨てた。まるで夜中に熱い想いをしたためたものの出せないラブレターみたいっていう切ないエピソード(笑)


舞台出演ということで、伊野尾くんの露出がえらいことになっていった。(伊野尾担比)

舞台関連初めての雑誌だった「STAGE SQUARE 」には、まさに“無知の知”のそのままの伊野尾くんがいた。まさかさすがにドル誌のように煙に巻く発言はしないとは思ったけれども(笑)、想像以上に素直に自分の言葉で話してくれる伊野尾くんはとても新鮮なんだけどとても伊野尾くんらしかった。

知念くんのご褒美として伊野尾くんが召喚され、出演したラジオでは、カラフト伯父さんの告知でちょっとボケた知念くんに「ノーいじりでお願いします」と言った。流れを壊さずに、でも言うことは言う姿勢にどんな風に舞台に取り組んでるのか、垣間見えた気がして胸がぎゅっとなった。

初単独表紙の「BEST STAGE」は、テキストもさることながら、そのあんまりであんまりなビジュアルに昇天して果てた…(笑)←笑、えないくらいにのたうちまわった。そうなんすよ、私の自慢の自担は圧倒的に顔面がかっこよくてかわいいんですよ…(メロメロ)

TVガイドPERSONでは、「自分がいままでグループ以外の仕事がほとんどなかった分、結果を残してグループに恩返しがしたい」と話してくれた。
「個人の仕事がなかった」「恩返しがしたい」「結果を残したい」きっと今まで色んな想いがあったはずなのに、屈託もなくそう話す。テキトーと言われ、いつも飄々としていて、本音はなかなか話してくれない伊野尾くんだけれど、必要な時には自分の言葉できちんと伝えてくれる人だと改めて感じる。自分を大きく見せようとしない、かといって必要以上に過小評価して卑下したりもしない、それがどれだけ難しいことか、ある程度社会で生きてるとわかるからとても素敵だと思う。
あと〔ultimate weapon〕て見出しが粋すぎて震えた。ありがたい。
けれど、担当者が伊野尾くんにエロい表情を要求した上、顔面容姿を褒めちぎって本人に軽く流される、ってゆう全伊野尾担総地団駄エピソードをTwitterで自慢してきた点については、ゆるしてない…ずるい…ゆるさない…(怨)


編集者さんの力量もあるとは思うけれど、いつもポーカーフェイスに見える伊野尾くんの不安や喜びや楽しみや入り混じったリアルな気持ちがどのテキストにも素直に表れていて、普段触れられない部分に触れられたような気がして嬉しくなった。そして改めて伊野尾くんの強さや前向きさに触れて、どうしようもなく誇らしくて天井も底も見えない彼の魅力が本当に恐ろしくなった。

こんな風に、舞台が近づくにつれて、期待は高まるとともに、当初感じていた「初ストレート舞台で主演、しかも三人芝居…大丈夫かしら…」という心配は払拭されていた。必ず結果を出して見せてくれるという信頼が揺るぎないものになっていた。 そんな風に思わせてくれるのが本当に嬉しくて嬉しくてたまらなかった。そして当然皮肉なことに、嬉しい楽しみな気持ちに比例して「やっぱり観たかった」という行き場のない気持ちも大きくなる。

妊娠後期に入り、ちょくちょくマイナートラブルを発症しては体調がよくない日も多く、そんな時は心も弱ってしまって、「初日でも楽日でもない日でいい、一番後ろの一番端の席でいい、1公演でいい、観たい…」と夜な夜な布団の中で涙する情緒不安定ぷりと激重ぷりを発揮したし、伊野尾担じゃないたくさんの人に観て欲しいって思うのに、伊野尾くんちょっと気になるから舞台に行くという人を見ると嬉しい反面「私の方がずっと好きだしずっと観たいのに…!」なんていう子供じみたことを考えてしまうこともあった。猛省。

だけどね、行かれる方みんな楽しんできてほしいって本当に思ってるんだよ!これは本当に本当に本当だよ!


いよいよ、今夜18:00幕が上がる。


渋谷駅のポスターも、グローブ座の看板も、結局一度も見に行けなかった。もちろんチケットもないし、舞台に行くために新調した洋服もない。私と関係のないワクワクした世界が回ってる感じが、すこしだけ寂しい。

だけど、やっぱり伊野尾くんが主演で舞台をやる、ってことが何よりも本当に嬉しい。

改めて、伊野尾慧くん初主演舞台おめでとうございます。

千秋楽まで、怪我等なく無事に終わりますように。
体も心もボロボロになっても、伊野尾くんにとって、これからの糧となるような素晴らしい経験になりますように(きっとなるね)。
行けなかったことを一生引きずるくらいに、観劇した人みんなの心に残る素敵な舞台になりますように。

今頃伊野尾くんは何してるかな、最後のお稽古だろうか、どんな気持ちでいるかな、お昼ご飯は美味しいごはん食べられるだろうか、少しでもリラックスできる何かがあればいいな、昨日はゆっくり眠れたのかな、そんな私が考えてもしょーもないことをぐるぐると考えている。

私を元気づけているのか、伊野尾くんにエールを送ってくれているのか、はたまた動きたい気分なのか(それや)お腹の中の赤ちゃんがいつも以上にポコポコ元気に私を蹴飛ばしてくる。